世界の国々はWTO(世界貿易機構)の取り決めや、多国間または2国間の貿易協定(例:TPP)に基づき、できるだけ低い関税率で、お互いにメリットを享受し合い、経済的発展を遂げてきました。しかし、トランプ大統領はそうした従来のやり方を乱暴に転換し、他の国々に一方的に関税を吹っ掛けて、米国にとって有利な関税率を無理やり飲ませようとしています。
日米の関税交渉は7月22日に決着し、何とか15%に落ち着きました。政府は上々の成果だと自画自賛し、経済界もとりあえず安堵しているかのように見えます。しかし、鉄鋼・アルミなどは50%となり、半導体や医薬品等はEU並みの15%になる見込みであるものの未定、自動車は従来2.5%だったものが一時27.5%(2.5%+25%)と吹っ掛けられ、最終的に15%となりました(しかし適用開始時期は8月1日に発表された大統領令では記載がありませんでした)。政府が当初目論んでいた自動車の関税率上乗せ撤廃(従来の2.5%にすること)は失敗したのです。
トランプは、「アメリカの貿易赤字は他の国々から搾取された結果であり不公平だ!アメリカの製造業を国内回帰させる!関税収入を原資に減税する!」と意気込んでいますが、トランプが一方的に仕掛けた関税戦争は、アメリカの一人勝ちでは終わらないでしょう。勿論、短期的にはアメリカの関税収入は大幅に増えるでしょうが、長い目でみれば、輸出国が支払う高関税は、輸出者の利益の圧縮には限界があることから、輸入品の価格に次第に転嫁され、アメリカの物価は上がるでしょう。アメリカ国民はインフレに苦しむことになります。また製造業の国内回帰も簡単ではありません。そもそもアメリカの製造業が人件費の安いメキシコやアジアに逃避したのは、アメリカ国内の人件費の高騰が原因であり、その状態が加速するインフレの中で解消される見込みはなく、国内回帰はよほど充実した補助金政策でもしない限りは無理でしょう。
トランプが一方的に世界の国々に仕掛けた関税戦争は、ある意味、「関税の武器化」でもあります。2010年に中国は領土問題を切っ掛けに、世界シェアで優位を誇るレア・アースの対日輸出を制限したことがありました。また今年の4月にアメリカから高関税率を吹っ掛けられや再びレア・アースの対米輸出を制限しました。日本やアメリカは、半導体産業にとってなくてはならないレア・アースの輸出を制限することは、「希少鉱物の武器化」だ!と言って中国を非難しましたが、今、アメリカは「関税の武器化」をやっているのであり、中国を非難する資格はありません(武器化するものを何も持たない日本は堂々と非難する資格があります(笑))。とは言え、そんなことに目くじらを立てて青臭いことを言っても意味がないという意見もあるでしょう。国際関係、外交、経済上の様々なやり取りは、力が正義であり、使える手段は何でも使うのが王道なのだと。しかし、意味がない効果がないと思いつつも非難すべきことは非難しなければなりません。
中東ではイスラエルがガザ地区で攻撃を続け、同地のパレスチナ人が飢餓状態となっています。この状況に、フランスのマクロン大統領が「パレスチナを国家として認める」という発言をし、イギリスのスターマー首相もそれに続きました。更に、カナダのカーニー首相が「パレスチナを国家として承認する」と発言しました。イスラエルを支援するトランプは、これが気に入らなかったらしく、カナダとの関税交渉は未決着だったこともあり、なんと「カナダには35%の関税率を適用する!」と宣言しました。関税は貿易上の不均衡を是正するものだったにも拘わらず、政治的に気に食わんから高関税を課すというもので、当に典型的な「関税の政治武器化」です。支離滅裂です。
もうひとつトランプの支離滅裂ぶりを示す最近の出来事を紹介します。8月1日に発表されたアメリカの雇用統計で、景気の動向を示す就業者のデータが大幅に下方修正されたことについて、「重大な誤りだ」「雇用統計は共和党と私を悪く見せるために操作されたものだ」などと根拠なく主張して、労働省統計局長を即刻解雇するよう命じました。自分に都合の悪い統計数値が出たからと言って役人を解雇するとは、とんでもない支離滅裂ぶりです。ちなみに、米労働省が1日発表した7月の雇用統計では、非農業部門雇用者数の市場予想は11万人増でしたが、発表は7万3000人増でした。伸びは予想以上の鈍化を示しただけでなく、過去2カ月分の雇用者数も計25万8000人下方修正され、この結果為替は一晩で約3円50銭も円高方向に振れました。
中国では経済指標が共産党上層部に気に入られるように操作されるといわれています。要は全く信頼性がないということです。今回のように、統計数値が気に入らないからといって役人を解雇していたら、誰も本当の正しい数値を言わなくなります。
キャッチ画像は、東京湾のコンテナヤード


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